ルジャンドル多項式と

周辺事項に関する覚書

第II部 第5章 極座標系の斉次ポアソン方程式の解析

pdf版はこちらから。 相互参照やハイパーリンクなどをしっかり入れています。 また学習進度に合わせてレベル分けなども行っていますので、ぜひご参照ください。

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5 極座標系の斉次ポアソン方程式の解析

§4.1 や §4.2, §4.3 のような状況でのポアソン方程式を考えましょう。

静電場決定問題の (4.1) にしても、定常波の波動方程式 (4.2) にしても、中心力ポテンシャルのシュレディンガー方程式 (4.3) にしても、ポアソン方程式 \begin{align} \label{poisson} \Delta\phi(\boldsymbol{x}) = -f(\boldsymbol{x}) \end{align} の右辺が極座標でいう \(r\) だけの関数と \(\phi\) の積になって、 \begin{align} \label{poisson eq} \tag{5.1} \Delta\phi(\boldsymbol{x}) = -f(r)\phi(\boldsymbol{x}) \end{align} の形をしています。 すなわち斉次ポアソン方程式です。

\eqref{poisson eq}の解を求めるには変数分離するのがいいでしょう。 変数分離した \(r,\theta,\varphi\) 各変数の関数 \(R(r), \Theta(\theta), \Phi(\varphi)\) が満たす方程式を導出、解析していきます。 特に \(\Theta\) の変形が満たすのがルジャンドル陪微分方程式になります。

本節の参考文献は砂川・猪木川合・半揚・柴田是常・時弘です。

目次

5.1 変数分離

5.1.1 動径変数と角変数の分離

変数分離によって \begin{align} \tag{5.2} \label{separated phi} \phi(\boldsymbol{x}) = \phi(r,\theta,\varphi) = R(r)\Theta(\theta)\Phi(\varphi) \end{align} とします。 これを\eqref{poisson eq}に入れれば、 \begin{align} \Delta\phi = \frac{1}{r^2}\frac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR}{dr} \right) \Theta\Phi + \frac{1}{r^2\sin\theta} \frac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\frac{d\Theta}{d\theta} \right) \Phi R + \frac{1}{r^2\sin^2\theta} \frac{d^2\Phi}{d\varphi^2} R\Theta = -f(r)R\Theta\Phi \end{align} となります。 両辺を \(r^2/R\Theta\Phi\) 倍して \[ \dfrac{1}{R} \dfrac{d}{dr} \left( r^2\dfrac{dR}{dr} \right) + \dfrac{1}{\Theta\sin\theta} \dfrac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\dfrac{d\Theta}{d\theta} \right) + \dfrac{1}{\Phi\sin^2\theta} \dfrac{d^2\Phi}{d\varphi^2} = -r^2f(r) \] です。 \(r\) 依存部分と \(\theta, \varphi\) 依存部分を分ければ、 \[ \tag{5.3} \label{separated poisson} \dfrac{1}{R} \dfrac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR}{dr} \right) + r^2f(r) = -\dfrac{1}{\Theta\sin\theta} \dfrac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\dfrac{d\Theta}{d\theta} \right) - \dfrac{1}{\Phi\sin^2\theta} \dfrac{d^2\Phi}{d\varphi^2} \] が得られます。

\eqref{separated poisson}左辺は \(r\) のみに、右辺は \(\theta, \varphi\) のみに依存しているので、恒等的に等号が成り立つには両辺とも定数でなければなりません。 この定数を \[ \tag{5.4} \label{lambda def} \dfrac{1}{R} \dfrac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR}{dr} \right) + r^2f(r) = -\dfrac{1}{\Theta\sin\theta} \dfrac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\dfrac{d\Theta}{d\theta} \right) - \dfrac{1}{\Phi\sin^2\theta} \dfrac{d^2\Phi}{d\varphi^2} \equiv \lambda \quad(\lambda\in\mathbb{C}) \] としておきます。

5.1.2 角変数どうしの分離

さて、今度は角変数を分離しましょう。

\eqref{lambda def}の右側の等号によって、 \[ \dfrac{\sin\theta}{\Theta} \dfrac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\dfrac{d\Theta}{d\theta} \right) + \lambda\sin^2\theta = - \dfrac{1}{\Phi} \dfrac{d^2\Phi}{d\varphi^2} \] です。 \eqref{separated poisson}から\eqref{lambda def}を得るときと同様に、左辺は \(\theta\) のみに、右辺は \(\varphi\) のみに依存していますから、複素定数 \(m\) によって \[ \tag{5.5} \label{m def} \dfrac{\sin\theta}{\Theta} \dfrac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\dfrac{d\Theta}{d\theta} \right) + \lambda\sin^2\theta = - \dfrac{1}{\Phi} \dfrac{d^2\Phi}{d\varphi^2} \equiv m^2 \] とできます。

\(m\in\mathbb{C}\) としたが、特に古典物理を考えるにあたっては \(m^2\notin\mathbb{R}\) となることはない。 従って \(m\) は実数ないし純虚数に限られる。 また、わざわざ定数を \(m^2\) とおいたことに恣意性を感じる読者も少なくないはずだ。 この定数の置き方の恣意性については §5.2.3 及び §6.3.1 にて解決される。

5.2 変数分離された分布のみたす微分方程式

変数分離によって変数が \(r\) だけ、\(\theta\) だけ、 \(\varphi\) だけの方程式がそれぞれ得られました。 この方程式を整理して一般解を求める準備をしていきます。

5.2.1 動径方程式

\eqref{lambda def}の両端をとれば、 \[ \dfrac{1}{R} \dfrac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR}{dr} \right) + r^2f(r) = \lambda \] となります。 両辺 \(R\) 倍して整理すると、 \[ \dfrac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR}{dr} \right) + r^2f(r)R - \lambda R =0 \] が手に入ります。 この解 \(R\) は一般に \(\lambda\) によって異なりますから、 \[ \tag{5.6} \label{radial eq} \dfrac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR_\lambda}{dr} \right) + r^2f(r)R_\lambda - \lambda R_\lambda =0 \] と書いておきましょう。 ポアソン方程式の一般解 \(\phi=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\varphi)\) における \(R\) はこの方程式の一般解ですね。 ということで、この方程式を動径方程式と呼んであげます。

\(\Theta(\theta=0,\pi)\) の正則性を考慮すると、\(\lambda=l(l+1), l\in\mathbb{Z}\) を考えるのが一般的です。 このとき\eqref{radial eq}は直ちに \[ \tag{5.7} \label{radial l} \dfrac{d}{dr} \left( r^2\frac{dR_l}{dr} \right) + r^2f(r)R_l - l(l+1) R_l =0 \] と書き換えられます。 物理でこの応用を考えるときは主にこちらの方程式を解いていきます。

ここで、\eqref{radial eq} の \(R_\lambda\) と \eqref{radial l} の \(R_l\) は別の関数形であることに注意。 本来は表記を分けるべきなのだろうが、この記事でも慣習的な表記でも、複素定数の場合は \(\lambda\) を、整数定数の場合は \(l\) に統一されるので、区別にあたって問題はないだろう。 上記の書き方を採用した方が、結果として経済的であると考えられないだろうか。

5.2.2 \(\Theta\) の満たす微分方程式

\eqref{m def}の両端を使えば、 \[ \tag{5.8} \label{m and theta} \sin\theta \dfrac{d}{d\theta} \left( \sin\theta\dfrac{d\Theta}{d\theta} \right) + \lambda\Theta\sin^2\theta = m^2\Theta \] が要請されますね。 ここで \(\sin\theta\:d/d\theta\) の形が目立つので、 \begin{array}{rcl} \tag{5.9} \label{x and cos} \cos\theta&=&x \\ -\sin\theta\:d\theta&=&dx \end{array} としておきます。 このとき \begin{array}{rcl} \dfrac{d\Theta}{d\theta} &=& -\sin\theta \dfrac{d\Theta}{dx} \\ \dfrac{d^2\Theta}{d\theta^2} &=& \sin^2\theta\dfrac{d^2\Theta}{dx^2} - \cos\theta\dfrac{d\Theta}{dx} \end{array} が成り立つので、\eqref{m and theta}の微分をライプニッツルールで分解したのち、\(\Theta\) の微分を代入して、 \[ \sin^2\theta \left( \sin^2\theta \dfrac{d^2\Theta}{dx^2} - \cos\theta \dfrac{d\Theta}{dx} \right) + \sin\theta\cos\theta \left( -\sin\theta \dfrac{d\Theta}{dx} \right) + \lambda\Theta\sin^2\theta - m^2\Theta = 0 \] が得られます。 両辺 \(\sin^2\theta\) で割って\eqref{x and cos}を使えば、 \[ (1-x^2)\dfrac{d^2\Theta}{dx^2} - 2x\dfrac{d\Theta}{dx} + \lambda\Theta - \dfrac{m^2}{1-x^2}\Theta =0 \] です。 解 \(\Theta\) は \(\lambda, m\) の値によって変わりますから、\(\Theta_\lambda^m\) と書いておけば、第1項と第2項をまとめて \[ \left[ \dfrac{d}{dx} \left( (1-x^2)\dfrac{d}{dx} \right) + \left( \lambda - \dfrac{m^2}{1-x^2} \right) \right] \Theta_\lambda^m =0 \] と表せます。

かくして \(x\) の関数 \(y\) に関する方程式が得られます。 \[ \tag{5.10} \label{asc Leg eq} L_\lambda^m[y_\lambda^m] := \left[ \dfrac{d}{dx} \left( (1-x^2)\dfrac{d}{dx} \right) + \left( \lambda - \dfrac{m^2}{1-x^2} \right) \right] y_\lambda^m =0 \] これこそ我々がpdf版で数十ページをかけてこねくり回すルジャンドルの倍微分方程式です。

\(x=\pm1\) すなわち \(\theta=0,\pi\) における解の正則性を考慮すると、\(\lambda=l(l+1)\) とおいて \(l\in\mathbb{Z}_{\geq0}\) の場合を考えるのが一般的で、 \[ \tag{5.11} \label{asc Leg eq with l} L_l^m[y_l^m] := \left[ \dfrac{d}{dx} \left( (1-x^2)\dfrac{d}{dx} \right) + \left( l(l+1) - \dfrac{m^2}{1-x^2} \right) \right] y_l^m =0 \] と表せます。

先述の通り、\(L_\lambda^m, y_\lambda^m\) と \(L_l^m, y_l^m\) は全く別の演算子形・関数形である。 使用頻度や使いやすさ、視認性を考慮すれば、上記の書き方が経済的であると考えられよう。

\eqref{asc Leg eq with l}の解を \(P_l^m(x)\) と表せば、 \[ \tag{5.12} \Theta_l^m(\theta)=P_l^m(\cos\theta) \] です。

また、\(m=0\) のときは斉次方程式になって解析が容易になるので、ルジャンドルの微分方程式も用意しておきましょう。 \[ \tag{5.13} \label{Leg eq} L_\lambda[y_\lambda] := \left[ \dfrac{d}{dx} \left( (1-x^2)\dfrac{d}{dx} \right) + \lambda \right] y_\lambda =0 \] \[ \tag{5.14} \label{Leg eq with l} L_\lambda[y_l] := \left[ \dfrac{d}{dx} \left( (1-x^2)\dfrac{d}{dx} \right) + l(l+1) \right] y_l =0 \] 今後、ことあるごとに「ルジャンドルの微分方程式で得られた解析結果を陪微分方程式に拡張する」という手法を取ります。

5.2.3 \(\Phi\) の満たす微分方程式

\eqref{m def}の右側の等号によって直ちに \[ \dfrac{d^2\Phi}{d\varphi^2} = -m^2\Phi \]

が得られます。 この方程式は調和振動子の運動方程式として有名で、一般解は \[ \tag{5.15} \label{Phi solution} \Phi_m(\varphi)=e^{\pm im\varphi} \] ですね。
次回 第6章 ルジャンドルの陪微分方程式から得られる性質