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前章までは \(\theta\) に関するルジャンドル陪関数 \(P_l^m(\cos\theta)\) と \(\varphi\) に関する解 \(\Phi_m(\varphi)=e^{im\varphi}\) を分けて考えましたが、この二つを合わせて2変数関数 \(Y_l^m(\theta,\varphi)\) を考えることも少なくありません。
角変数に関する解の積を \(\theta,\varphi\) の2変数関数とみなして扱うときに「半径 \(1\) の球面上の積分で規格化されている」すなわち \[ \tag{9.1} \label{sphere harmonic integral} \int d\Omega Y_{l'}^{m'\ast}(\theta,\varphi) Y_{l}^{m}(\theta,\varphi) = \delta_{l,l'}\delta_{m,m'} \] という規格化条件を課すことにより、調和関数としての性質が表れてきます。
ということで、規格化条件\eqref{sphere harmonic integral} を適用して球面調和関数の具体形を求めることで、第II部の終わりとしましょう。
参考文献は猪木川合、時弘、金子松本です。
前章まで扱ってきた極座標ポアソン方程式の角変数に関する解 \(\Theta_l^m(\theta),\Phi_m(\varphi)\) の規格化を駆使していきます。 \[ Y_l^m(\theta,\varphi) = C_l^mP_l^m(\cos\theta)e^{im\varphi} \] として定数 \(C_l^m\) を求めていく方針を取ります。 このとき\eqref{sphere harmonic integral}は、 \[ \int_{r=1}\sin\theta d\theta d\varphi Y_{l'}^{m'\ast}(\theta,\varphi) Y_{l}^{m}(\theta,\varphi) = C_{l'}^{m'\ast} C_l^m \int_0^\pi\sin\theta d\theta P_{l'}^{m'}(\cos\theta) P_{l}^{m}(\cos\theta) \int_0^{2\pi}d\varphi e^{i(m-m')\varphi} \] となりますね。
ルジャンドル多項式 \(P_l^m\) は実関数だが、定数 \(C_l^m, C_{l'}^{m'}\) 及び \(\varphi\) に関する関数 \(\Phi_m(\varphi)=e^{im\varphi}\) は一般に複素数値関数であることに注意。
まず \(\varphi\) に関する規格化は容易に計算できて、 \begin{array}{rcl} \displaystyle \int_0^{2\pi}d\varphi e^{i(m-m')\varphi} &=& \displaystyle \begin{cases} 0 & m-m'\neq0 \\ 2\pi & m-m'=0 \end{cases} \\ &=& 2\pi\delta_{m,m'} \end{array} となります。 クロネッカーの \(\delta\) によって \(m,m'\) が揃うことを使って、\(\theta\) 依存性については、 \begin{array}{rl} & \displaystyle \int_0^\pi\sin\theta d\theta P_{l'}^{m'}(\cos\theta) P_l^m(\cos\theta) \delta_{m,m'} \\ =& \displaystyle \int_1^{-1}-dxP_{l'}^m(x)P_l^m(x)\delta_{m,m'} \quad\because(5.9) \\ =& \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!}\dfrac{2}{2l+1}\delta_{l,l'}\delta_{m,m'} \quad\because(7.12) \end{array} と計算できますね。
従って\eqref{sphere harmonic integral}は、 \[ |C_l^m|^2 \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!}\dfrac{4\pi}{2l+1} \delta_{l,l'}\delta_{m,m'} = \delta_{l,l'}\delta_{m,m'} \] となるので、位相の不定性はあれど、 \[ \tag{9.2} \label{abs of coefficient} |C_l^m| = \sqrt{\dfrac{(l-m)!}{(l+m)!}\dfrac{2l+1}{4\pi}} \] がわかります。
以上の議論によって、球面調和関数は \[ \tag{9.3} \label{sphere harmonic func} Y_l^m(\theta,\varphi) = \sqrt{\dfrac{(l-m)!}{(l+m)!}\dfrac{2l+1}{4\pi}} P_l^m(\cos\theta) e^{im\varphi} \] とすればいいことがわかるでしょう。 実際、電磁気学をはじめとして古典論では\eqref{sphere harmonic func}を球面調和関数の定義とすることが多いです。
しかし、特に量子力学においては第III部で取り上げる角運動量の議論のために、位相の取り方を若干変更して \[ \tag{9.4} \label{sphere harmonic func in another phase} Y_l^m(\theta,\varphi) = (-1)^m \sqrt{\dfrac{(l-m)!}{(l+m)!}\dfrac{2l+1}{4\pi}} P_l^m(\cos\theta) e^{im\varphi} \] とする流儀があります。この際(7.10)を考慮すると、\(m\lt0\) では \begin{array}{rcl} Y_l^m(\theta,\varphi) &=& (-1)^m \sqrt{\dfrac{(l-m)!}{(l+m)!}\dfrac{2l+1}{4\pi}} (-1)^m \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!} P_l^{-m}(\cos\theta) e^{im\varphi} \\ &=& \sqrt{\dfrac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}\dfrac{2l+1}{4\pi}} P_l^{|m|}(\cos\theta) e^{im\varphi} \end{array} と、露わな負号が消えることに詳しくは10.2にて紹介しますが、「\(m=l\) から下降演算子によって順次 \(m\) の値を下げる」という関数の構成方法のために、\(m\) ごとに正負が変わります。
\eqref{sphere harmonic func}, \eqref{sphere harmonic func in another phase}いずれの場合でも\eqref{abs of coefficient}を満たすことは一目瞭然ですね。