ルジャンドル多項式と

周辺事項に関する覚書

第II部 第7章 ロドリゲスの公式

pdf版はこちらから。 相互参照やハイパーリンクなどをしっかり入れています。 また学習進度に合わせてレベル分けなども行っていますので、ぜひご参照ください。

誤植・質問等ありましたら、こちらに遠慮なくご連絡ください。

7 ロドリゲスの公式

ルジャンドルの陪微分方程式(5.10)の一般解をダイレクトに求めても、係数が(6.3)で与えられる無限級数の形式で書かれているために、この解が満たす様々な性質を見るのは困難です。 ここでは先人の研究にあやかって、ロドリゲスの公式を用いることにしましょう。 これがルジャンドルの陪微分方程式の特解であることがわかれば、とりあえず実用に耐えます。 また、一足飛びにルジャンドルの陪微分方程式の特解であることを示すのも骨が折れますから、一度\(m=0\) で考え、それをもとに \(m\) の値を変えていくという手法を取りましょう。

本章の参考文献は半揚、時弘です。

目次

7.1 ロドリゲスの公式概論

唐突ですが、定義域 \(I\subset\mathbb{R}\) 上で可積分な正の関数 \(w(x)\) を用意します。 つまり \[ \left| \int_I w(x)dx \right| \let\infty \] です。 この \(w\) を一般に重み関数などと表現します。 \(x\) の高々2次の整式 \(X(x)\) と重み関数 \(w\) 及び定数 \(C\) を使って \[ \tag{7.1} \label{Rodrigues} u_n(x) = \frac{C}{w(x)} \frac{d^n}{dx^n} (w(x)X^n(x)) \] と表される式を、一般にロドリゲスの公式と呼びます。

7.1.1 ロドリゲスの公式から得られる種々の直交関数系

もちろん\eqref{Rodrigues}はルジャンドルの陪微分方程式を解くにあたって有用ですが、それ以上に物理学で多用される数々の直交多項式をも与えてくれます。 \(w,X,C\) の値によって表3のように分類が可能です。

量子力学などで特にお目にかかるであろうエルミート多項式や羅ゲール多項式もロドリゲスの公式の一例です。 定義域が有限の場合、重み関数は多項式で十分ですが、定義域全域で収束させるためには、半無限のラゲールでは \(w=e^{-x}\) に、両無限のエルミートでは \(e^{-x^2}\) にしなければなりません。

7.1.2 ロドリゲスの公式が n 次多項式であることの証明

以下ではこうしたロドリゲスの公式が直交関数系であることを導出するわけですが、そもそも何処の馬の骨とも知らぬ\eqref{Rodrigues}がちゃんと \(n\) 次多項式になっていることを確認しなければなりません。 ルジャンドル多項式を考える分には、表3から \(n\) 次多項式であることは自明ですのでこの確認は不要ですが、一般には \(w\) が分母に現れたり \(w\) が多項式函数でなかったりすることから、必要不可欠となります。

有限区間 \(I=[a,b]\) で証明します。 \begin{array}{l} w(x)=(x-a)^\alpha(b-x)^\beta \\ X(x)=(x-a)(b-x) \\ \alpha, \beta\gt1 \end{array} とすれば、表3に挙げられた有限区間のロドリゲスの公式は全て調べ上げられます。 らゲール・エルミートの場合は表3の形式をそのまま使えば証明可能です。

以下、ポッホハマー記号 \((n)_k=n(n-1)\cdots(n-k+1)\) を使います。 文献によっては昇冪で定義するので、注意が必要です。 \(w(x)X^n(x)=(x-a)^{n+\alpha}(b-x)^{n+\beta}\) にライプニッツルールを適用すれば、 \begin{array}{rcl} D^n(wX^n) &=& \sum_{k=0}^n \left( \begin{matrix} n\\k \end{matrix} \right) (D^k(x-a)^{n+\alpha})(D^{n-k}(b-x)^{n+\beta}) \\ &=& \sum_{k=0}^n \left( \begin{matrix} n\\k \end{matrix} \right) ((n+\alpha)_k(x-a)^{n+\alpha-k}) ((n+\beta)_{n-k}(-1)^{n-k}(b-x)^{\beta+k}) \end{array} となるので、\(D^n(wX^n)\) は \(n+\alpha+\beta\) 次多項式です。 これを \(\alpha+\beta\) 次多項式 \(w\) で割った\eqref{Rodrigues}は \(n\) 次多項式になりますね。

7.1.3 ロドリゲスの公式の直交性

ロドリゲスの公式が表3の直交関数を表すという以上、\eqref{Rodrigues}は直交関数系になっているはずです。 ただし内積は重み関数を伴い、かつ実関数であることから、直交関係は \[ \tag{7.2} \label{Rodrigues orthog} \int_I u_m(x)u_n(x)w(x)dx \propto \delta_{m,n} \] とします。

有限区間 \(I=[a,b]\) で証明します。 7.1.2の設定をここでも使えば、表3に挙げられた有限区間のロドリゲスの公式は全て調べ上げられます。 ラゲール・エルミートは表3の式をそのまま使えば同様に証明可能です。

それでは内積\eqref{Rodrigues orthog}を計算していきましょう。 \(n=m\) では内積の正値性から \(0\) 以上であり、\(u_n(x)\neq0\) なる \(x\) が必ず存在するので、内積は値を保ちます。 そこで \(m\lt n\) として部分積分を使うと、 \begin{array}{cl} & \displaystyle \int_a^bu_m(x)u_n(x)w(x)dx \\ =& \displaystyle \int_a^b u_m(x) D^n ( (x-a)^{n+\alpha} (b-x)^{n+\beta}) ) dx \\ =& \displaystyle \left[ u_m(x) D^{n-1} ( (x-a)^{n+\alpha} (b-x)^{n+\beta} ) \right]_a^b \\ & \displaystyle -\int_a^b Du_m(x) \cdot D^{n-1}( (x-a)^{n+\alpha} (b-x)^{n+\beta} ) dx. \end{array} ここで、右辺第1項の内部は \begin{array}{cl} D^{n-1}( (x-a)^{n+\alpha} (b-x)^{n+\beta} ) &=& (const.)\times (x-a)^{1+\alpha} (b-x)^{n+\beta} \\ &+&\cdots \\ &+& (const.)\times (x-a)^{n+\alpha} (b-x)^{1+\beta} \end{array} となるので、境界 \(x=a,b\) で消去されます。 \(\alpha, \beta\gt1\) に注意してください。 従って部分積分を続けると、 \[ \int_a^b u_m(x)u_n(x)w(x)dx = (-1)^n \int_a^b D^nu_m(x) \cdot \left( (x-a)^{n+\alpha} (b-x)^{n+\beta} \right) dx=0 \] となります。 これで直交性が示せました。

7.1.4 ロドリゲスの公式の満たす微分方程式

結論を先に提示すれば、ロドリゲスの公式\eqref{Rodrigues}は微分方程式 \begin{array}{l} \tag{7.3} \label{Rodrigues eq} \displaystyle \frac{1}{w(x)} D(w(x)X(x)Du_n(x)) = \lambda_nu_n(x) \\ \displaystyle \lambda_n = nu_1'(x) + \frac{n(n-1)}{2} X''(x) \end{array} を満たします。 逆に、これら方程式がルジャンドルの微分方程式やエルミートの微分方程式などを与えます。

証明は、まず\eqref{Rodrigues eq}第1式を満たす \(\lambda_n\) が存在することを示し、次いでその \(\lambda_n\) が第2式の表式になることを示すという順序で行います。

\eqref{Rodrigues eq}第1式左辺を計算して \begin{array}{rcl} \dfrac{1}{w(x)} D(w(x)X(x)Du_n(x)) &=& \dfrac{1}{w(x)} D(w(x)X(x)) Du_n(x) + X(x)D^2u_n(x) \\ &=& u_1(x)Du_n(x) + X(x)D^2u_n(x) \end{array} より、左辺は \(n\) 次式。 表3を見れば \(w(x)X(x)\) が境界部分で \(0\) になっていますから、左辺と \(u_m(x)\) との内積を\eqref{Rodrigues orthog}により部分積分で計算すると、 \begin{array}{cl} & \displaystyle \left( \frac{1}{w} D(wXDu_n) , u_m \right) \\ =& \displaystyle \int_I \frac{1}{w} D(wXDu_n)u_mwdx \\ =& \displaystyle [u_mwXDu_n]_I - \int_I wXDu_m\cdot Du_ndx \\ =& \displaystyle -[u_nwXDu_m]_I + \int_I u_nD(wXDu_m)dx \\ =& \displaystyle \left( u_n , \frac{1}{w}D(wXDu_m) \right) \end{array} が得られます。

演算子 \(\hat{O}=\displaystyle\frac{1}{w}DwXD\) が \((\hat{O}u_n,u_m)=(u_n,\hat{O}u_m)\) を満たすこと、すなわち \(\hat{O}\) がエルミート演算子であることを示したことになる。

ここで \(n\geq m\) とし、\(n\) 次式である\eqref{Rodrigues eq}第1式左辺が \[ \frac{1}{w}D(wXDu_n) = \sum_{k=0}^n \lambda_ku_k \quad (\lambda_n\neq0) \] と書けるとしましょう。 上記の内積は、左辺が \[ \left( \frac{1}{w} D(wXDu_n) , u_m \right) = \lambda_m(u_m,u_m) \] であり、右辺は \[ \left( u_n , \frac{1}{w}D(wXDu_m) \right) = (u_n,O(x^m)) \] です。 \(n\gt m\) のときは \((u_n,O(x^m))=0\) である一方、内積の正値性から \((u_m,u_m\gt0\) ですから、\(\lambda_m=0\) となります。 よって \[ \frac{1}{w}D(wXDU_n) = \lambda_nu_n \] となり、\eqref{Rodrigues eq}第1式を満たす \(\lambda_n\) が存在します。

演算子 \(\dfrac{1}{w}DwXD\) の固有方程式になっている。

次いで\eqref{Rodrigues eq}第1式右辺の最高次の係数を比較します。 \(u_n(x)=\alpha_nx^n+O(x^{n-1}), X(x)=X_0x^2+O(x)\) とすると、 \begin{array}{cl} & \dfrac{1}{w}D(wXDu_n) \\ =& \dfrac{1}{w}D(wX)Du_n + XD^2u_n \\ =& u_1D\alpha_nx^n + XD^2\alpha_nx^n + O(x^{n-1}) \\ =& (\alpha_1x+O(x^0)) \alpha_nnx^{n-1} + (X_0x^2+O(x))\alpha_nn(n-1)x^{n-2} + O(x^{n-1}) \\ =& (n\alpha_1+n(n-1)X_0)\alpha_nx^n + O(x^{n-1}) \\ =& \left( nu_1' + \dfrac{X''}{2}n(n-1) \right) \alpha_nx^n + O(x^{n-1}) \end{array} となるので、\eqref{Rodrigues eq}第2式が得られます。

7.2 ロドリゲスの公式によるルジャンドル多項式

ルジャンドルの微分方程式(5.14)とロドリゲスの公式が満たす微分方程式\eqref{Rodrigues eq}を見比べると、 \[ w(x)=1, X(x)=1-x^2, \lambda_n=-l(l+1) \] とすれば良いことがわかります。 従ってルジャンドルの微分方程式に対するロドリゲスの公式は \[ \label{Leg polyn propto} P_l(x) \propto \dfrac{d^l}{dx^l}(1-x^2)^l \] と表せますね。 通常、定数は正規化した形から求めるのですが、こと直交関数系に関しては \(x=1\) での値が \(1\) となるように揃えることが多いです。 これを踏まえると \[ \tag{7.4} \label{Leg polyn} P_l(x) = \frac{1}{2^ll!} \frac{d^l}{dx^l} (x^2-1)^l \] となります (証明7.2.1)。

また、この表式で \(P_l\) はルジャンドルの微分方程式を満たす \(l\) 次多項式ですから(7.1.4, 7.2.2参照)、\(P_l\) は(6.5)を係数とする原点周りの級数展開と見なすことができるでしょう。 ゆえに \(P_l\) を \(l\) 次のルジャンドル多項式と呼びます。

7.2.1 ルジャンドル多項式の定数係数の決定

さて、上で注意したように直交関数系ではノルムを \(1\) に揃える通常の正規化の代わりに \(x=1\) での値が \(1\) となるような標準化 \[ \tag{7.5} \label{Leg polyn normal} P_l(1) = \left( \dfrac{1}{2^ll!} D^l(x^2-1)^l \right)_{x=1} =1 \] を行います。 ここでは係数 \(\dfrac{1}{2^ll!}\) によって標準化されていることを証明していきましょう。

\(P_l\) の微分を帰納的に実行します。 まず \(l=0\) では自明に \[ \dfrac{1}{2^ll!} D^l(x^2-1)^l =1 \] となります。 \(0, 1, \cdots, l\) で\eqref{Leg polyn normal}が成り立っているとして、\(l+1\) では \begin{array}{cl} & \dfrac{1}{2^{l+1}(l+1)!} D^{l+1}(x^2-1)^{l+1}_{x=1} \\ =& \dfrac{1}{2^{l+1}l!} D^l \left( (x^2-1)^l\cdot2x \right)_{x=1} \\ =& \dfrac{1}{2^{l+1}l!} \left[ 2xD^l(x^2-1)^l + 2D^{l-1}(x^2-1)^l \right]_{x=1} \\ =& \dfrac{1}{2^ll!}D^l(x^2-1)^l + \dfrac{1}{2^ll!} D^{l-1}(x^2-1)^l_{x=1} \end{array} となります。 第1項は仮定から \(1\) です。 第2項は \begin{array}{cl} & D^{l-1}(x^2-1)^l \\ =& D^{l-1}[(x+1)^l(x-1)^l] \\ =& (x+1)^lD^{l-1}(x-1)^l + lD(x+1)^l\cdot D^{l-2}(x-1)^l + \cdots \\ \propto& (x-1) \xrightarrow{x=1} 0 \end{array} となるので、\eqref{Leg polyn normal}が証明されました。

7.2.2 ルジャンドル微分方程式の解であることの別証明

二度手間ではありますが、ルジャンドル多項式\eqref{Leg polyn}がルジャンドルの微分方程式(5.14)の解であることを直接示しておきましょう。

\eqref{Leg polyn}を(5.14)に入れて両辺 \(2^ll!\) をかけると、左辺 \(L\) は \begin{array}{rcl} L &=& [ (1-x^2)D^2 - 2xD + l(l+1) ] D^l(x^2-1) \\ &=& [ (1-x^2)D^{l+2} - 2xD^{l+1} + l(l+1)D^l ] \end{array} です。 右辺第1項に着目するとライプニッツルールによって \begin{array}{cl} & (1-x^2)D^{l+2}(x^2-1)^l \\ =& D^{l+2}[(1-x^2)(x^2-1)^l] - (l+2)[D(1-x^2)][D^{l+1}(x^2-1)] \\ & -\left( \begin{matrix}l+2\\2\end{matrix} \right) [D^2(1-x^2)][D^l(x^2-1)^l] - \left( \begin{matrix}l+2\\3\end{matrix} \right) [D^3(1-x^2)][D^{l-1}(x^2-1)^l] - \cdots \\ =& -D^{l+1}D(x^2-1)^{l+1} + 2(l+2)xD^{l+1}(x^2-1)^l + (l+2)(l+1)D^l(x^2-1)^l \end{array} を得ます。

ライプニッツルールによって、 \[ D^n(AB) = AD^nB + nDAD^{n-1}B + \left(\begin{matrix} n\\2 \end{matrix}\right) D^2AD^{n-2} + \cdots \] となる。 「何番目の微分演算子で \(A\) が微分されるか」の場合の数を足し合わせていると考えればわかりやすいだろう。

さらにこの第1項は、 \begin{array}{cl} & -D^{l+1}D(x^2-1)^{l+1} \\ =& -(l+1)D^{l+1}[2x(x^2-1)^l] \\ =& -(l+1) [ 2xD^{l+1}(x^2-1)^l + 2(l+1)DxD^l(x^2-1)^l ] \end{array} と表されるので、 \begin{array}{rcll} L &=& -2(l+1)xD^{l+1}(x^2-1)^l & -2(l+1)^2D^l(x^2-1)^l \\ && +2(l+2)xD^{l+1}(x^2-1)^l & +(l+2)(l+1)D^l(x^2-1)^l \\ && -2xD^{l+1}(x^2-1)^l & +l(l+1)D^l(x^2-1)^l \\ &=& 0 \end{array} となります。

以上より、ルジャンドル多項式\eqref{Leg polyn}がルジャンドルの微分方程式(5.14)の解であることが直接的に示されました。

7.2.3 ルジャンドル多項式の直交性

ロドリゲスの公式が直交関数系をなすことからルジャンドル多項式\eqref{Leg polyn}が直交関数系となるのはいうまでもありませんが、まだ添字が揃った場合の値を求めていません。 本節では次数が等しいルジャンドル多項式の内積を求め、そのついでにルジャンドル多項式から直接直交性を示していきます。

\(n\) 次のルジャンドル多項式は \(n\) 次式ですから、\(x^n\) は \(n\) 次までのルジャンドル多項式の線形和で書けるはずです。 これをもとに \[ \tag{7.6} \label{integ of x^n and Leg polyn} \int_{-1}^1x^nP_l(x)dx \] を計算しましょう。 ここではルジャンドル多項式を \[ \tag{7.7} \label{Leg polyn with !!} P_l(x) = \dfrac{1}{2^ll!}D^l(x^2-1)^l = \dfrac{1}{(2l)!!}D^l(x^2-1)^l \] の形で表しておきます。

\[ n!! = \begin{cases} n(n-2)(n-4)\cdots1&(n\:is\:odd) \\ n(n-2)(n-4)\cdots2&(n\:is\:even) \end{cases} \] を使うと表式がわずかながら綺麗になる。

部分積分によって \begin{array}{cl} & \displaystyle \int_{-1}^1x^nP_l(x)dx \\ =& \displaystyle \dfrac{1}{(2l)!!} \int_{-1}^1x^nD^l(x^2-1)^ldx \\ =& \displaystyle \dfrac{1}{(2l)!!} \left( [x^nD^{l-1}(x^2-1)^l]_{-1}^1 - \int_{-1}^1nx^{n-1}D^{l-1}(x^2-1)^ldx \right) \\ =&\cdots \\ =& \displaystyle \dfrac{1}{(2l)!!} (-1)^k \int_{-1}^1 n(n-1)\cdots(n-k+1) x^{n-k}D^{l-k}(x^2-1)dx \\ =& \displaystyle \dfrac{(-1)^kn!}{(2l)!!(n-k)!} \int_{-1}^1 x^{n-k}D^{l-k}(x^2-1)^ldx \end{array} となります。

\(n\lt l\) の場合

\(k=n\) として計算すると、 \[ \int_{-1}^1D^{l-n}(x^2-1)^ldx = \left[ D^{l-n-1}(x^2-1)^l \right]_{-1}^1 \] です。 \(D^{l-n-1}(x^2-1)^l\) は \(x^2-1\) を必ず因数に持つので、右辺の値は \(0\) となります。

\(l\leq n\) の場合

\(k=l\) として積分を計算すると、 \begin{array}{cl} & \displaystyle \int_{-1}^1x^{n-l}(x^2-1)^ldx \\ =& \displaystyle \left[ \frac{1}{n-l+1}x^{n-l+1}(x^2-1)^l \right] - \int_{-1}^1 \frac{2l}{n-l+1}x^{n-l+2}(x^2-1)^{l-1}dx \\ =& \displaystyle -\frac{2l}{n-l+1} \left( \left[ \frac{1}{n-l+3} x^{n-l+3} (x^2-1)^{l-1} \right]_{-1}^1 - \int_{-1}^1 \frac{2(l-1)}{n-l+3} x^{n-l+4} (x^2-1)^{l-2} dx \right) \\ =&\cdots \\ =& \displaystyle \frac{(-1)^l2;\cdot2(l-1)\cdots2}{(n-l+1)(n-l+3)\cdots(n-l+2l-1)} \int_{-1}^1x^{n-l+2l}dx \\ =& \displaystyle \frac{(-1)^l(2l)!!}{(n-l+1)(n-l+3)\cdots(n-l+2l-1)} \times \begin{cases} 0 & (n+l\:is\:odd) \\ \dfrac{2}{n+l+1} & (n+l\:is\:even) \end{cases} \end{array} となります。

よって \(l\leq n\) かつ \(m+l\) が偶数のときに限り\eqref{integ of x^n and Leg polyn}は値をもち、 \begin{array}{r} \dfrac{(-1)^ln!}{(2l)!!(n-l)!} \dfrac{(-1)^l(2l)!!}{(n-l+1)(n-l+3)\cdots(n-l+2l-1)} \dfrac{2}{n+l+1} \\ = \dfrac{2\cdot n!}{(n-l)!(n-l+1)(n-l+3)\cdots(n-l+1)} \end{array} です。

さて、我々が求めたいのはルジャンドル多項式の直交性でした。 \(P_l\) は最高次数が \(l\) の多項式であり、\(P_{l'}\) は \(l'\) 次の多項式です。 まず \(l\neq l'\) のときは、上の場合分け1つ目の \((l,n)=(l,l')\) または \((l,n)=(l',l)\) の場合に相当するので、 \[ \int_{-1}^1P_l(x)P_{l'}(x)dx=0 \] が成り立ちます。一方ルジャンドル多項式\eqref{Leg eq with !!}の最高次の係数を求めると、 \[ P_l(x) = \dfrac{1}{(2l)!!}D^lx^{2l}+O(x^{l-1}) = \dfrac{(2l)!}{(2l)!!l!}x^l + O(x^{l-1}) \] です。 従って \(l=l'\) のときは2番目の場合分けをもとに、 \begin{array}{cl} & \displaystyle \int_{-1}^1P_l(x)P_(x)dx \\ =& \displaystyle \int_{-1}^1\frac{(2l)!}{(2l)!!l!}x^lP_l(x)dx \\ =& \displaystyle \frac{(2l)!}{(2l)!!l!}\frac{2\cdot l!}{0!(2l+1)!!} \\ =& \displaystyle \frac{2l(2l-1)\cdots1\cdot2}{(2l)(2l-2)\cdots2\cdot(2l+1)(2l-1)\cdots1} \\ =& \dfrac{2}{2l+1} \end{array} が得られます。

以上によって、ルジャンドル多項式の直交性は \[ \tag{7.8} \label{Leg orthog} \int_{-1}^1P_l(x)P_{l'}(x)dx = \dfrac{2}{2l+1}\delta_{l,l'} \] となります。

7.3 ロドリゲスの公式によるルジャンドル陪多項式

ルジャンドル多項式はルジャンドルの微分方程式で \(m=0\) という特別な場合に対してのみ適用できるものです。 特にポアソン方程式(5.1)が \(\varphi\) について対称である場合は \(m=0\) となりますが、一般には \(m\neq0\) を無視することはできません。 6.3.1でみた通り \(m\in\mathbb{Z}\) えお考えれば十分ですから、以下ではルジャンドル多項式\eqref{Leg polyn}を \(m\in\mathbb{Z}\) にまで拡張します。 \[ \tag{7.9} \label{asc Leg polyn} P_l^m(x) \equiv (1-x^2)^{m/2} \left(\dfrac{d}{dx}\right)^m P_l(x) = \dfrac{(1-x^2)^{m/2}}{2^ll!} \left(\dfrac{d}{dx}\right)^{l+m} (x^2-1)^l \] \(y_l^m(x)=P_l^m(x)\) はルジャンドルの陪微分方程式の特解です (証明7.3.2)。 この性質のゆえに、\eqref{asc Leg polyn}をルジャンドル陪多項式と呼びます。

随伴ルジャンドル多項式と称する文献もある。

7.3.1 \(m\lt0\) でのルジャンドル陪多項式

ルジャンドル陪多項式\eqref{asc Leg polyn}では \(m\lt0\) の形も許され、 \[ \tag{7.10} \label{asc Leg polyn m negative} P_l^{-m} = (-1)^m \dfrac{(l-m)!}{(l+m)!} P_l^m \] です。 以下、これを証明しましょう。

\(D^{l+m}\) を \(D^{l-m}\) で表現したいので、 \begin{array}{rcl} D^{l+m}(x^2-1)^l &=& D^{l+m}[(x+1)^l(x-1)^l] \\ &=& \sum_{k=0}^{l+m} \left(\begin{matrix}l+m\\k\end{matrix}\right) D^k(x+1)^l\cdot D^{l+m-k}(x-1)^l \end{array} としておきます。 \(0\leq k\leq m-1\) では \(D^{l+m^k}(x-1)^l=0\) であり、\(l+1\leq k\leq l+m\) では \(D^k(x-1)^l=0\) ですから、総和のうち残る部分だけを取り出して計算すると、 \begin{array}{cl} &D^{l+m}(x^2-1)^l \\ =& \displaystyle \sum_{k=m}^l \left(\begin{matrix}l+m\\k\end{matrix}\right) D^k(x+1)^l\cdot D^{l+m-k}(x-1)^l \\ =& \displaystyle \sum_{k=0}^{l-m} \left(\begin{matrix}l+m\\m+k\end{matrix}\right) D^{m+k}(x+1)^l\cdot D^{l-k}(x-1)^l \\ =& \displaystyle \sum_{k=0}^{l-m} \left(\begin{matrix}l+m\\m+k\end{matrix}\right) \dfrac{l!}{(l-m-k)!}(x+1)^{l-m-k} \dfrac{l!}{k!}(x-1)^k \\ =& \displaystyle \sum_{k=0}^{l-m} \left(\begin{matrix}l+m\\m+k\end{matrix}\right) \dfrac{l!}{(l-m-k)!}(x+1)^{-m}(x+1)^{l-k} \dfrac{l!}{k!}(x-1)^{-m}(x-1)^{m+k} \\ =& \displaystyle \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!}(x^2-1)^{-m} \sum_{k=0}^{l-m} \dfrac{(l-m)!}{(l+m)!} \dfrac{(l+m)!}{(m+k)!(l-k)!} \dfrac{l!l!}{(l-m-k)!k!} (x+1)^{l-k}(x-1)^{m+k} \\ =& \displaystyle \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!}(x^2-1)^{-m} \sum_{k=0}^{l-m} \dfrac{(l-m)!}{(l-m-k)!k!} \dfrac{l!}{(l-k)!}(x+1)^{l-k} \dfrac{l!}{(m+k)!}(x-1)^{m+k} \\ =& \displaystyle \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!}(x^2-1)^{-m} \sum_{k=0}^{l-m} \left(\begin{matrix}l-m\\k\end{matrix}\right) D^k(x+1)^l \cdot D^{l-m-k}(x-1)^l \\ =& (x^2-1)^{-m} \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!} D^{l-m}(x^2-1)^l \end{array} となります。 従って、 \begin{array}{rcl} P_l^{-m}(x) &=& (1-x^2)^{-m/2}\dfrac{1}{2^ll!}D^{l-m}(x^2-1)^l \\ &=& (1-x^2)^{^m/2}\dfrac{1}{2^ll!} \dfrac{(l-m)!}{(l+m)!}(x^2-1)^mD^{l+m}(x^2-1)^l \\ &=& (-1)^m\dfrac{(l-m)!}{(l+m)!}P_l^m(x) \end{array} より、\eqref{asc Leg polyn m negative}が示されました。

7.3.2 ルジャンドル陪微分方程式の特解であることの証明

\eqref{asc Leg polyn}右辺の \(P_l\) 直前の \(m\) 階微分に着目します。 ルジャンドルの陪微分方程式(5.14)にルジャンドル多項式\eqref{Leg polyn}を入れた式 \[ [D((1-x^2)D)+l(l+1)]P_l=0 \] を \(m\) 回微分すると、 \begin{array}{cl} \tag{7.11} \label{7.11} & D^m[(1-x^2)D^2-2xD+l(l+1)]P_l \\ =& [ (1-x^2)D^{m+2} - 2mxD^{m+1} - m(m-1)D^m \\ & - 2xD^{m+1} - 2mD^m + l(l+1)D^m ]P_l \\ =& [ (1-x^2)D^2 - 2(m+1)xD + l(l+1) - m(m+1) ]D^mP_l \\ =&0. \end{array} 一方で、 \begin{array}{rcl} D(1-x^2)^{m/2} &=& -mx(1-x^2)^{m/2-1} \\ D^2(1-x^2)^{m/2} &=& m(m-2)x^2(1-x^2)^{m/2-2} - m(1-x^2)^{m/2-1} \end{array} を使うと、\eqref{asc Leg polyn}をルジャンドルの陪微分方程式(5.11)に入れたものは、 \begin{array}{rl} & \left[ (1-x^2)D^2 - 2xD + \left( l(l+1) - \dfrac{m^2}{1-x^2} \right) \right] (1-x^2)^{m/2}D^mP_l \\ =& \Biggl[ (1-x^2)^{m/2+1}D^2 + 2(1-x^2)(D(1-x^2)^{m/2})D + (1-x^2)(D^2(1-x^2)^{m/2}) \\ & -2x(1-x^2)^{m/2}D - 2x(D(1-x^2)^{m/2}) + \left( l(l+1)-\dfrac{m^2}{1-x^2} \right) (1-x^2)^{m/2} \Biggr] D^mP_l \\ =& \Biggl[ (1-x^2)^{m/2+1}D^2 - 2mx(1-x^2)^{m/2}D - 2x(1-x^2)^{m/2}D \\ & +m(m-2)x^2(1-x^2)^{m/2-1} - m(1-x^2)^{m/2} - 2mx^2(1-x^2)^{m/2-1} \\ & +\left( l(l+1)-\dfrac{m^2}{1-x^2} \right) (1-x^2)^{m/2} \Biggr] D^mP_l \\ =& (1-x^2)^{m/2} \left[ (1-x^2)D^2 - 2(m+1)xD + \dfrac{m(m-2)x^2}{1-x^2} - m + \dfrac{2mx^2}{1-x^2} + \left( l(l+1)-\dfrac{m^2}{1-x^2} \right) \right] D^mP_l \\ =& (1-x^2)^{m/2} \left[ (1-x^2)D^2 - 2(m+1)xD + \dfrac{m^2x^2}{1-x^2} + \dfrac{mx^2}{1-x^2} + \left( l(l+1) - \dfrac{m^2}{1-x^2} - \dfrac{m}{1-x^2} \right) \right] D^mP_l \\ =& (1-x^2)^{m_2} [ (1-x^2)D^2 - 2(m+1)xD + l(l+1) - m(m+1) ] D^mP_l \\ =&0. \qquad(\because\eqref{7.11}) \end{array} 従ってルジャンドル陪多項式\eqref{asc Leg polyn}はルジャンドルの陪微分方程式(5.11)の特解となります。

7.3.3 ルジャンドル陪多項式の直交性

7.2.3でルジャンドル多項式の直交性を得たのと同様に、ルジャンドル陪多項式も \([-1,1]\) 区間で直交関数系となります。 ここでも \(m\) は揃えて考察しましょう。 導出は時弘の方法がΒ関数を使うものの洗練されていますので、ご紹介しましょう。

ルジャンドル陪多項式の直交性の証明よりも、Β関数の応用を身につける方が遥かに有用であることはいうまでもない。 詳細は付録Aを参照。

\(m=0\) では7.2.3にて\eqref{Leg orthog}となることを既に示していますので、以下では \(m\geq1\) としましょう。 \(m\lt0\) では\eqref{asc Leg polyn m negative}を使えば \(m\geq0\) とすることができます。 また次数 \(l\) が異なる場合に直交することは6.2.2にて示していますので、ここでは次数が揃っているときの係数に注目します。

唐突ですが、\eqref{asc Leg polyn m negative}を使うと、 \begin{array}{rcl} \displaystyle \int_{-1}^1P_l^m(x)P_l^m(x)dx &=& \displaystyle (-1)^m\dfrac{(l+m)!}{(l-m)!} \int_{-1}^1P_l^{-m}(x)P_l^m(x)dx \\ &=& \displaystyle \dfrac{(-1)^m(l+m)!}{(2^ll!)^2(l-m)!} \int_{-1}^1D^{l-m}(x^2-1)^lD^{l+m}(x^2-1)^ldx \end{array} と変形でき、微分回数に差を生じさせることができます。 部分積分を繰り返せば、 \begin{array}{cl} & \displaystyle \int_{-1}^1D^{l-m}(x^2-1)^lD^{l+m}(x^2-1)^ldx \\ =& \displaystyle [D^{l-m-1}(x^2-1)^lD^{l+m}(x^2-1)^l]_{x=-1}^{x=1} - \int_{-1}^1D^{l-m-1}(x^2-1)^lD^{l+m+1}(x^2-1)^ldx \\ =& \cdots \\ =& \displaystyle (-1)^{l-m}\int_{-1}^1(x^2-1)^lD^{2l}(x^2-1)^ldx \end{array} となりますね。 2行目の境界部分で \(x^2-1\) が余ることに注意すれば、境界 \(x=\pm1\) で \(0\) となることがわかるはずです。 最終行 \(D^{2l}(x^2-1)^l\) の部分は \(D^{2l}[x^{2l}+O(x^{2l-1})]=(2l)!\) となりますから、元の積分に戻れば、 \begin{array}{rl} & \displaystyle \int_{-1}^1P_l^m(x)P_l^m(x)dx \\ =& \displaystyle (-1)^m\dfrac{(l+m)!}{(2^ll!)^2(l-m)!}(-1)^{l-m} \int_{-1}^1(x^2-1)^lD^{2l}(x^2-1)^ldx \\ =& \displaystyle \frac{(l+m)!}{(2^ll!)^2(l-m)!} \int_{-1}^1(2l)!(-1)^l(x^2-1)^ldx \\ =& \displaystyle \frac{(l+m)!}{(l-m)!} \frac{(2l)!}{(2^ll!)^2}\int_{-1}^1(1-x^2)^ldx \\ =& \displaystyle \frac{(l+m)!}{(l-m)!}2^{2l+1}B(l+1,l+1)\qquad\because(A.13) \\ \\ =& \displaystyle \frac{(l+m)!}{(l-m)!} \frac{2^{2l+1}(2l)!}{(2^ll!)^2} \frac{(l!)^2}{(2l+1)!}\qquad\because\text{§A.2 性質3} \\ =& \displaystyle \frac{(l+m)!}{(l-m)!}\frac{2}{2l+1} \end{array} となります。 以上によってルジャンドル陪多項式の直交性 \[ \tag{7.12} \int_{-1}^1P_{l'}^m(x)P_l^m(x)dx = \dfrac{(l+m)!}{(l-m)!}\dfrac{2}{2l+1}\delta_{l,l'} \] が得られました。

次回 第8章 極座標斉次ポアソン方程式一般解